Column
スマイル相続ちえ袋
あれは4年ほど前になりますが、まるで探偵ナイトスクープのような相談を受けました。
それは、お父様の相続をきっかけにして実家の登記を確認していくと、いくつかの土地に分かれている実家の敷地のうち、1筆だけ誰かわからない謎の人物の名義になっていた、というものでした。
確かに、実家の敷地のど真ん中にある土地で、虫食いのようにここだけ他人の物であったとは思えません。
名義人の名前だけわかっていますが、親戚でも何でもない人です。
どうも最近まで近所に住んでいた人の親戚ではないか、という話になり、そのつてをたどって聴き取りしてみると、登記名義人になっている人物の特定はできました。かなり昔に亡くなっている人で、その後は登記も放置されていたようです。
しかし、実家のど真ん中の土地がなぜその人物の名前になっているのか、原因ははっきりしませんでした。
そして、問題はどうやってこの虫食いの1筆の他人名義を訂正するかですが、考えられるのは時効取得です。
まずは、この名義人の相続人を全員割り出し、お手紙を出すことにしました。何らかの理由で登記を間違ったと思われるので、名義変更に協力してもらえないか、というものです。
ところが、戸籍を調査した結果、土地の名義人の相続人は50人を超えることが分かりました。こうなると、1人1人お手紙で名義変更の承諾をもらうのは現実的ではありません。
被告にされる相続人にはお気の毒ですが、相続人全員を相手に時効取得を原因とする所有権移転登記請求訴訟を提起して、判決で全員に認めさせて名義変更する方針を立てました。
そして訴訟提起の前に、どのような判決文をもらえば名義変更ができるのかを、法務局とやり取りして確認していきました。その傍ら、訴状作成に取り掛かっていたところ・・・
法務局の担当者から、気まずそうに電話がかかってきました。
いわく、法務局内部でも土地名義の不自然さが問題になったらしく、過去の登記関係書類を調べていき、結果、手違いが見つかったそうです。自作農創設特別措置法に基づきこのあたり一帯の土地の名義変更を一斉にやるはずだったのが、なぜだかこの土地一筆だけ手続が漏れており、以後80年近くにわたって放置されていたそうです。
むしろ、これまで誰も突っ込まなかったのが不思議ですね。
自作農創設特別措置法というのは、あのマッカーサーの農地改革のことです。土地の名義人は、地主さんだったのでしょう。
ということで、法務局に今さらながら「登記官の過誤につき職権更正」の登記をしてもらい、その後無事相続登記を終えることができました。
謎はすべて解けた!ということで、探偵の職務も終了しました。